年賀状のお年玉抽選番号を調べた、切手シートが一通当選していた。今年は春から縁起がいいと、手にしたその年賀状の差出人はこの春定年を迎え現役を退くと書き記されていた親しい友人からのものであった。歳月の流れるのは本当に速いものだと感慨深いものがこみ上げる。お互い土木屋として永年に渡り親交を深め、彼はひたすらダム畑を歩き続け国内外のダム事業を数多く手掛けて今では数少ない国内屈指のダム屋である。また一人、偉大な技術者が現役を去って行くと思うと一抹の寂しさがある。世界最高レベルである日本のダム技術が架け橋となって国際貢献に大いに役立ったことは世界中の多くの人々が認めるところである。あの世界最大級と呼ばれる中国の三峡ダムは16年間の歳月をかけて昨年完成した。発電能力は1,820万kwで世界最大の水力発電所となった。中国全土の約1割の消費電力を賄うことができる。彼を含む私の先輩たちが着工前から現地に赴き幾多の困難を乗り越え技術協力を行ったことが中国のダム技術の向上に大きく拍車をかけた。これら国境を越えた技術者魂が絶賛されたことは私自身技術者の一人として大きな誇である。ここ数年日本国内では不幸にもダム無用論が広がり急激にダム事業の影が薄くなった。そして政権交代によってそのことが決定的なものとなった。確かに日常生活の中では、大きな災害でもなければダムの有り難みなどわからないものかもしれない。猛暑の時期に雨が降らず川が干上がってダムの水が底を突くなど。
或いは震災によって飲み水に困るようなことでもない限りダムへの依存など思いもよらないことかもしれない。がしかし、そこに大きな落とし穴があって忘れたころにやってくる大地震など災害時にはたちどころに飲み水に困窮し悲惨な状況となる。
困ってみて始めて気が付いた時には手遅れで、ダムは一朝一夕にはできないのである。実際のところ全国的には、まだまだダムが必要な地域がたくさんあるにもかかわらず現状ではその事業の推進は断たれたままである。日本のダムは地震に対して強く造られていて安全性が非常に高い。何よりも水力発電は究極のエコ発電であり日本の風土によく合う。日本人の命の水を守り、そして地球温暖化対策にはこれが一番なのである。ダムの技術は国家事業として土木技術の最高の粋を結集した技術であり長い歴史の中で築かれたもの。言わば国力そのものなのである。
しかし高齢化の波は例外なくダム技術者にも訪れここ数年の内に大半が定年を向え後継者の育たないまま現役を去っていく。今正に日本のダム技術の火が途絶えようとしている。今こそ足元をしっかり見据え早期に政策転換してこの流れを食い止めなければ取り返しの付かないことになる。
置き土産となったこの切手シートは大切に取っておきたい。